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「あの、BARで横に座ってきたチャラ男がまさか玉岡君なの?」
「チャラ男とは心外だなぁ~。たまたま髪の毛の色が明るかっただけだろ?」
金髪は明るいだけの表現では補えないです。と即答するれば玉岡君はケラケラと笑ってから真剣な表情へと変えた。
「大企業なんて嫌だな自由がなきゃ楽しくないだろ。って言葉をばーやが覚えてたのに驚いた」
「私はあの金髪ヤンキー男がこの会社に入れたことに驚いてるよ」
噛み合わない会話に私たちは顔を見合わせて笑いあうと、玉岡君は押さえつけてる力を緩めてくれて、その代わりに私は玉岡君の冷えきった手を両手で包み込んだ。
「なぁ、雪も止まないようだしあの時みたいにくだらない話をしながら飲むか?」
「えぇそうね。積もる話もたくさんあるでしょうし」
ほぼ同時に手を離してから、私はカバンのなかを探って折りたたみ傘をとりだした。その小さい傘は私たち二人を隠すのには足りなくて、でも今の私たちには十分な大きさだ。
ギュッ、ギュッ、と新しい雪を踏む音がふたつ。ワクワクするなぁと純粋に思っていたあの頃にはもう戻れないけど。ふたつのあしあとを街頭が照らしてその上からまた雪が積りはじめていた。新しい何かが始まるかもしれないその合図は雪の音かもしれない。
(ねぇ、いつから気づいてたの)
(愚問だね。最初からに決まってるだろ)
(なんか、こわいね)
(気づいてない君のがこわかったよ)
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