672人が本棚に入れています
本棚に追加
/130ページ
あいつと再会して合鍵を貰ってから、仕事帰りに時折訪れては朝食を作った。
だけど元々朝食を摂る習慣の無いあいつが口にするのは精々薄いトースト一枚とコーヒーだけで、挙句「お前も疲れてんだから、朝メシは作らなくていいよ」と云われた。
一見俺を気遣うような言葉だけど、今思えばあれは「余計な事するな」って事だったんだろうな。
そんな事にも気付かずに、馬鹿な俺はあいつの体を気遣って、せめてもと野菜と果物で作ったジュースを用意していた。
飲み易いように味を工夫して作り置きしていたけれど、目の前で眉を顰めて一気に飲み干しただけで何の感想も無かった。
それどころか冷蔵庫に作り置いていたジュースは次に訪れるまで全く減らなかった。
偶に休みが合って部屋に泊まった時には、好き嫌いの多いあいつの好みに合わせて手の込んだ夕食を作ったりもした。
ただ黙々と食べるだけで「美味しい」とも「ありがとう」とも云われた事なんか無い。
初めて作った時の感想は。
「へえ、お前が作ったのか」
その一言だった。
それでも食べて貰える事が嬉しくて、料理をしている間は楽しかったし幸せだった。
───我ながら、何処の女子だよってくらい健気な真似してたんだな。
そう考えたら思わず自嘲の笑みが小さく零れた。
最初のコメントを投稿しよう!