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朝仕事を終えて家に帰ると、古い木造の自宅アパートは消炭と化していた。
警察や消防が忙しなく動く中、黄色いテープやロープで囲まれた敷地の外で、大家のジジイがいつもの偉そうな態度を何処かに捨てて来たような憔悴しきった顔で、ぽつぽつと説明した。
火元は二階の俺の隣りの部屋。
夜はいつも仕事で居ないから知らなかったが、大家が何度注意しても隣りに住む大学生のガキは毎晩のように友達連中とバカ騒ぎをしていたらしい。
他の住人からもしょっちゅう苦情があったと云う。
昨夜も深夜まで騒いで酒を飲んで雑魚寝したらしいが、その中の誰かの寝煙草が原因だった。
幸か不幸かそいつらの馬鹿騒ぎに遅くまで眠れなかった住人が多く、逃げ遅れたヤツは居なかった。
大家のジジイは他にも幾つかのアパートを持ってるが何処も埋まってて、住人全員の宿の面倒を見る余裕は無いと云う。
入居時に無理矢理入らされた火災保険の特約で家賃プラスαの金は出るらしいが、直ぐにという訳じゃない。
兎に角一夜の内に俺は、数少ない荷物と住まいを失った。
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