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音楽室に入る手前で、再びスマートフォンが鳴る。
ちらっと見てみると、姉さんからで、さっさと全部話して告白しな、と、さっき送られてきたものと同じ文章が届いていた。
さすがに2回も無視するのは気が引けたので、ほっといて、と返しておいた。
全部話して、というのは、俺が姉さんの名前を使って、奏汰に毎年自分が作ったチョコレートを渡していることだろう。
姉さんは俺が奏汰を恋愛的な意味で好きなことを知っていた。
だからこそこうして名前を貸してくれたり、相談に乗ってくれたりしていたが、最近は進展しようとしない俺にじれったさを感じてるのか、姉さんはこうして告白を促してくる。
本当、お節介。
同性同士だし、うまくいく自信は全くないので、告白なんてする勇気なんて微塵もないし、振られて気まずくなるのならば、このままでいいとさえ思っているのに。
もちろん、できるならば手をつないだり、キスをしたり、その先の事も、なんていう欲求は持っているけれど、奏汰が笑っているだけで幸せになれるから、今の状況でも十分だった。
わざわざ幸せな今の日々を壊す必要などない。
音楽室に入ると、同じクラスの子が、後でちょっといい?、と小声で聞いてきた。
その頬は赤く染まっていて、本命なのかな、と思ってしまう。
それと同時に、その想いに答えられないことに対して申し訳ない気持ちが湧き上がってくる。
だが、奏汰を好きなうちは誰とも付き合いたくないという想いが自分の中にはあったから、どうしても女の子の気持ちには答えられなかった。
好きな人がいるのに付き合うなんて相手に失礼な気がするし、自分も後悔するだろうから。
女の子が友達の元に戻った後、先に音楽室に入ってクラスの人と談笑をしていた奏汰にチラリと視線を向ける。
すると視線に気がついたかのようにすぐに奏汰と目と目が合って、雑談を中止して早足でこちらに来てくれる。
それに対してなんとも言えない幸せを感じた。
バレンタインデー。
恋人たちの愛の誓いの日。
本当の事は言えないけれど、大好きという気持ちをチョコレートに込めて届けれる日があって本当に良かったと思う。
これからもこの素敵なイベントが続きますようにと、そんなことを心の中で強く願った。
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