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そんなやり取りをしているうちに、一軒の民家の前までたどりついた。決して大きくはないが、立派な茅葺屋根が目を引く、いかにも日本らしい家だ。
「このあたりの家の人に聞き込みをしよう。何かわかるかもしれない」
そう言って、清士郎は呼び鈴を探す。しかしそれにあたるボタンなどはなく、仕方なく大きな声で住民を呼んだ。
「はい……どちらさんでしょうか」
しばらくして出てきたのは、ガメツや清士郎と同じく、20歳くらいの少女だった。小柄でおとなしそうな彼女の姿からは、端的にいって「地味」という印象を受ける。髪は少し茶色がかっているが、おそらく地毛だろう。飾り気のない服装と相まって、まさに「田舎娘」といった感じだ。
少女は、見知らぬ二人を交互に見た。一人は、痩せ型だがやけにギラギラした目を持つ長身の青年。もう一人は、先ほど自分を呼んだであろう、聡明な顔つきをした美男子。
突然、少女の頭に閃きが走る。
「あ、あの――」
聡明な顔つきをした青年が、少女に語りかけようとした、まさにその時。
「……愛の」
「え?」
「愛の――逃避行?」
未確認の言葉が、ガメツと清士郎を貫いた。
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