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では、なぜ、8年間おひとり様でいたくせに、急に結婚しようと思ったのか。
俺の出身は長野県だ。
実家は父方の祖父母と、父母と、2つ年下の弟夫婦と、その子どもが2人の、合計8人住まい。
祖父母は二人とも90代だ。
でも、お手製の小さな畑に8人家族で食べる分の野菜を栽培したりして、元気だった。
そう、元気だったんだ。
でも、先月、その爺ちゃんが倒れた。
俺は子どもの頃から筋金入りの “爺ちゃん子” で、何でも爺ちゃんに一番に話をしてきた。
爺ちゃんも俺にたくさんのことを伝えてくれた。
小学生のときは喧嘩した友だちと、どうしたら仲直りできるか相談したし、
陸上部に所属していた中学生のときは、思うように記録が伸びず落ち込む俺を爺ちゃんが励ましてくれた。
東京の私大に進学したいと家族に言ったときも、まずは爺ちゃんからだった。
倒れてからほぼ寝たきりになってしまった爺ちゃんのところに慌てて駆けつけると、爺ちゃんは嬉しそうな顔をしてくれたけど、同時に寂しそうな顔をした。
『明広も家族を作りなさい』
爺ちゃんの部屋に俺しかいなくなったとき、爺ちゃんはそう言った。
『守るものができると、景色が色づく』
誰のためでもなく、俺のために、守るべき家族がいる方が人生は楽しいよ、と、爺ちゃんは言いたかったらしい。
『そうだね…』
俺が爺ちゃんの手を握ると、
『できれば、明広の子どもの顔が見たいな』
と言って、爺ちゃんは微笑んだ。
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