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◇
~8年前~
『ずっと我慢してたんだけど、あっくんって、これ、気持ち悪くならないの? 』
自宅マンションの洗面所。
洗濯機上部の棚から、柔軟剤を取り出した水口美香が、俺に振り向いてそう言った。
あっくん、とは俺のことだ。
30代のとき5年付き合っていた美香は俺をそう呼んでいた。
『ん? いい匂いじゃない?
このフローラル系の香り、評判いいからロングセラーなんだよ。
美香だって機嫌良さそうにいつも使ってたじゃん』
『センス、な』
は? “な” って無いってこと?
『私、あっくんとは結婚できない。
この粉っぽい匂い、嫌いだもの』
『え、ちょ、ちょっと待って。
それってひょっとして昨日のプロポーズの返事? 』
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