第雪話 おもちゃは箱を飛び出して

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だれも驚くものはいない。 そう。僕らのクラスはみんな、一つ特別な能力を持っている。 いや、僕らのクラスだけではない。この学校の生徒全員が、である。 大人には内緒だ。 もちろん、ゆきの先生にも。 茂田くんは、手から全身からいろんな種類の藻が出せる。 莉子は、すごくいい匂いで人に幻覚を見せる。 僕らは普段、能力を使わない。大人にバレたら、捕まって、何をされるかわからないからだ。 でも、大雪の日だけは違う。 大雪の日は、大人達は外にはでない。 だから、僕たちは外にでる。 外で、能力を存分に使っても、バレないからだ。 だから今日は特別だ。 大雪の日だけの、能力者だけの、全力ドッジボール大会が開催されるのだ! 僕らのクラスは去年、1回戦で負けてしまった。 宿敵、5年5組のせいだ。 5年5組のリーダー、至宝出(しほうだ)さん。15センチ四方の正方形の暗闇を出現させる能力者だ。効力は3秒間だけだけど、目隠しされるのは本当に辛い。さらに、5組には久々津(くぐつ)さんもいる。物理的に触れた人間と、見た目を入れ替える能力者だ。これは第三者から指摘されるまで効果が続く。至宝出さんとのコンビプレーに大変悩まされた。 でも今年は僕らも負けない。 僕らのクラスには、秘策の転校生、狭華院さんがいる。クラスで初の瞬間移動能力者(テレポーター)だ。転移先で、足が接地してしまうと戻ってこれないという条件をどう使うかが、僕らの課題だけれども、絶対にうまくできる。そう信じている。 でも、噂だと、1年4組には、水系の能力者がいるらしい。僕の天敵だ。 なんとしてでも、今年は優勝したい。 優勝したクラスには、1年間、学校中のクラスで余った給食のデザートが毎日贈呈されるからだ。これは、負けられない...」 ふぅ、と息をついて僕は鉛筆を置いた。 一気にここまで書き上げたが、少し疲れた。 こんなドッジボール大会なんてあるわけもないけど、大雪で外に出られない日には、こんな妄想するのも楽しい。 ずっと座ってたから体が痛いや。 ストレッチも兼ねて、少し外に出よう。少しだけなら、バレないだろう。 僕は部屋の窓を開けて、ベランダに出た。 そして、上着を脱ぎ、燃え盛り軽くなった体で上空へと飛び出した。
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