第雪話 おもちゃは箱を飛び出して

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「今日は大雪。 都内では、今世紀最大の積雪量らしい。 何十年ぶりかに、夜には都心でも30センチは積もる見込みだって、朝のテレビで気象予報士が言っていた。 大人たちはそれを見て驚いていたけれど、僕は全く驚かない。 だって、前からずっと知っていたことだから。 朝起きてから、ご飯を食べて学校に行くまで無表情を貫きとおさなければいけない。 少しでも、楽しみな表情を漏らしちゃうと、お母さんもお父さんも、『大雪で危ないから、外に行っちゃダメですよ。』なんて念を押されるから。 全然楽しみじゃない顔して、雪が降っても遊びに行きませんよって態度で、しらっと学校に行かないと、せっかくの大雪が台無しだもんね。 『いってきまあす!』 といつも通り元気に叫んで、玄関をでた。 まだ雪は降っていなかったけど、空気がすごく澄んでいて、大きく吸い込むと、鼻から目の奥にまで冷たく刺さったから、本当に雪が降るって感じがした。 外の空気を楽しんでいると 『太陽、ちょっと戻っておいで!』ってお母さんが玄関から僕を呼んだ。 まさか雪を楽しみにしてたことがバレたのかな、って少しドキドキしながら玄関まで走って戻った。 『今日は寒くなるっていうから、ちゃんとマフラーしていきなさい。』 お母さんが、僕にマフラーを巻いてくれた。 このマフラーは、お父さんが去年使っていたやつで、広げると僕の身長よりも大きい。こんなの巻かなくても、寒くなんてないんだけれど、寒いふりをしないと逆に心配されちゃうから、そのままマフラーはして行くことにした。 『ありがとう!じゃあ、いってきまあす!』 僕はまた元気よく飛び出した。 『はあい、いってらっしゃい!今日は雪が降るっていうし、夜はカレー作るから、早く帰ってくるのよお!』 お母さんがそう言いながら手を振っていたから、僕も走りながら振り向いて、大きく手を振った。 カレーかぁ。 いいなぁ。カレー、食べてからでも間に合うよなぁ、なんて夜の予定のことを考えながら、そのまま走って、学校に行った。 途中一回も止まらなかった。 1年生の頃は、何度も何度も息が切れて立ち止まってたけど、もう僕は4年生。体力もすごいついた。だから、今日こそは、今年こそは、優勝できそうな気がするんだ。
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