頭に花を咲かせる

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 押入れは藤森明(ふじもりあきら)のスペースシップだ。  十三歳の明は小柄で、押入れの上段にこもっていても、それほど窮屈に感じなかった。頭上の裸電球のスイッチを入れる。  一畳半ほどのコクピットが照らしだされた。    積み上げられた座布団に寄せて、背もたれの動かなくなったリクライニングシートが、側面の壁に向けて置かれている。そこがチーフパイロットの操縦席だ。もともと入っていた布団類は、ぜんぶ下段の船倉に押し込んである。  明は操縦席に腰かけ、前方の壁を凝視する。  白い壁はスクリーンで、そこに大宇宙が映し出されていた。漆黒の闇を滲ませ、赤い球体が渦巻いている。スペースシップは火星に到達しようとしていた。 「明」  母親の声に、明の夢想は破られた。 「担任の狩野(かのう)先生がいらしてますよ。早く出てきなさい」 「うるさい」  明は、ふすまごしにどなりつけた。  明が中学に行かなくなったのは、一年生の夏休みのあとだった。宇宙や異星人の話ばかりするので、明は友達として受け入れてもらえなくなった。仲間外れにされ、もう三ヶ月近く学校に通っていない。  
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