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階段を上がってくる音がして、二人の足音が部屋に入って来た。
「明くん。先生だ」
明は無言でふすまに耳を押しつけた。
「きみが出て来ないんで、クラスのみんなはとても心配している。先生だって心配だ。早く学校に来い。みんな待ってるぞ」
その言葉が本当なら、そもそも不登校にならなかった。狩野は受け持つクラスの状況を見ていないし、知ろうともしない。まるで無関心だった。
明は担任の言うことをいっさい信用していない。
「息子さんはいま心を固く閉ざしているようです。無理にこじ開けようとしてはいけません。少しずつ歩みよりましょう」
狩野が母親に言い聞かせている。
明は、異星人がしゃべっているようだと思った。
十二月五日になった。その日は〈月刊大宇宙通信〉の発売日で、明はその雑誌を買うため、月に一度決まって家を出る。
玄関を出たとたん、冷たい風が吹き込む。明はマフラーに顔をうずめた。
明がいつも〈大宇宙通信〉を買う本屋は、駅の反対側のアーケード街にあった。道路の両側に並んだ店の多くは、シャッターが下りている。一年中、シャッターは閉ざされたままだった。
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