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四年前
『タケとリコの花屋』は、売り上げが伸び悩んでいた。
小椋武美(39)と、高見沢百合子(41)の二人で経営しているのだが、競合店が増え、ここ数年は赤字続きだった。
トランスジェンダーな小椋と、バイセクシャルな高見沢は、法的には認められていないとはいえ、十年前に結婚式を上げ、それを機に花屋を開業して現在に至る。
「今月も赤字ね」
「うーん、どうしよっか」
貯金も付きかけたその頃だった。その人が現れたのは。
「いらっしゃいませ」
高見沢が声を掛けたが、上下真白なスーツを着込んだその男は、右手のスーツケースを膝に抱えてしゃがみ込み、店の入り口にある、ミリオンバンブーを、無言でじっと眺めている。
ー大口のお客様ではないなー
小椋はそう思いながら、その男を見ていた。
「竹にしては、小さ過ぎかな」
男が初めて発した言葉だった。
「そちらは、竹に見えますが、実はドラセナの仲間なんですよ」
高見沢が、満面の笑顔で声を掛ける。
「これ、竹じゃないんですね」
男はそう言って立ち上がると、左に首を捻って一度頷いた。
それが合図だったのか、同じく上下を白のスーツで固めた女が店内に入ってきた。
その両腕に、白い布に包(くる》んだ何かを抱えて。
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