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「最近は、竹やぶもなければ、竹を刈る者もいませんからね」
そう言ったのは、赤ん坊を抱えた女の方だ。
「おい、余計なことは言うな」
男は、その女の方に顔だけ向けてそう言った後、再び小椋の方に向き直って、頭を下げた。
「お願いします。これはあなた方のためでもあり、ひいては我々の為でもあります」
突然訪れて、そんな事を言われても、簡単に信じることは出来ない。
それでも、その赤ん坊の笑顔が視界に入り、小椋の心も少しだけ揺らいでいる。
「養育費も、僅かではありますが置いていきます」
そう言って男が開けたスーツケースの中には、百万円の束が十組。
それを全部、机の上に置くと、男は続けた。
「でも、この娘を預かって頂ければ、この比ではない位、裕福になれると、保証致します」
随分オカルティックな事を言うものだ、と、小椋はその男を睨みつけた。
だが、気が付くと、高見沢が、いつの間にかその娘を抱っこしていた。
「お、おい、リコ、何やってんだ」
「タケちゃん、この娘、可愛いよー」
小椋は、その赤ん坊の可愛さから、提示された金額から、必死に抗おうとしていた。
こんな怪しげな提案はないからだ。
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