山男

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僕の仕事は登山家である。これまでも、あちこちの山を制覇してきた。難易度の難しさで有名な山の頂上を極めれば、人生で至福の時をそこで過ごす。それを繰り返して、登頂する度にテレビで放映される。 有名人となっている今は、あちこちの番組から出演オファーが来る。紀行番組のナレーションやクイズ番組、バラエティー番組と出演する度に入るギャラで次の登山費用に充てるのだ。 これまでに撮ってきた写真を出版し、それから入る印税で家を改築した。誰にも迷惑がかからないように防音工事を施し、地下室を設けてそこをトレーニング室にした。台本の読み合わせのために大声を出すのだ。これも防音効果のおかげだ。 登山には危険が付き物である。これまでも命を落としかけた事はある。物理的な怖さの他に心理的な怖さも数知れなく体験している。 その中でも、これから話す体験には自分でも語りたくないほど怖いのだ。思い出すのも嫌なこの体験をこれから話すとしよう。
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