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真っ暗―
「ここはどこだ」
次第に明るくなる。
「俺は…誰だ」
明るくなると、そこは廃墟。
上から、かなりの高さから見下ろされた廃墟。
(声の主の顔はまだ出さない)
コンクリートの床に数人の…三人の死体が転がっている。
それぞれ断末魔のすさまじく歪んだ形相で。
男ひとりと、女ふたり。
傍らに転がっている空の薬瓶。
「誰だか教えてやろうか」
横からいきなり声をかけてきて、ぬっと顔を突き出した奴―
福々しく丸々と太りにこにこしている男とも女ともつかない。
「誰だ、おまえは」
(まだ姿は見えない)
「さて、死神と言われたり、三途の川の渡し守と言われたり、どうかすると閻魔大王と言われたり」
「それにしては、福々しい恰好しているが」
「もともと決まった形なんかないのさ。しかし人間と話す時には一応姿を決めておかないとな。いくら死んでいても」
「死んでいる? 俺が?」
「あの死体の中の一つさ」
死体の顔、顔、顔。
「どれだかわかるか」
顔、顔、顔。
「…わからない」
福の神の顔をした死神は答える。
「自分の顔も忘れたか。死んだら、すべて水に流したってわけか」
「男か女かも、わからないか」
「わからない」
「あるいは」
「あるいは、なんだ」
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