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「そうだな、サトルにしておくか」
「しておくって、俺の名前を知らないのか」
「顔とか名前っていうのは、他と区別するのに役立てばいいんで、実体はあってないようなものだからな」
不安に襲われる男。
「さて、あと何を知りたい」
「俺はなぜ死んだ」
「知らない方がいいかもしれないぜ」
「なぜだ」
「なぜ生きている時のことをみんな忘れていると思う。知ったままじゃ成仏できないかもしれないからだ。それでもいいか」
「成仏している連中は余計なことを知らないままでいるということか」
「そうだ」
考えるサトル。
「どうする」
「教えてくれ」
突然、サトルの顔が歪む。
誰かの足に踏まれて歪んだのだ。
高校の廊下―
それから、サトルにふるわれる暴力の断片的な画が続く。
サトルをトイレに閉じ込める、物を隠す、金銭をカツアゲするワルたち(顔はわからない)。
スマートフォンでSNSに「死にたい」と書き込むサトル。
「私も」
と答えが返ってくる。
「毎日がつらい。まいにち殴られる」
「わたしもトイレに閉じ込められる」
「生きていても、つらいことばかり」
「こんな日常があと何十年も続くなんて耐えられない」
などの文字だけのやりとりが続く。
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