気配

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雪の夜。国家機密に関する物を作っている工場の監視ルームで俺達3人は、工場内外に設置されているカメラから送られてくる映像をチェックしていた。 映像のチェックという単調な作業中に居眠りしないように、椅子に座ってチェックを行う同僚2人と、彼らの後ろで立ったままチェックを行う俺。 従業員の姿が無い工場内や、人里から結構離れた場所にある工場の周りは静まり返り、昼間の喧騒が嘘のように感じる。 深々と降る雪がその静寂に輪をかけていた。 モニターの中で動いているのは、工場内を2人一組で巡回している武装警備員の姿だけ。 と、同僚の1人が声を上げた。 「オ、オイ! こ、これを見ろ! 人の姿が無いのに、足跡だけが門に近寄って来るぞ」 俺ともう1人の同僚が、その映像が映し出されているモニターを注視する。 確かに深々と降る雪の上に足跡があり、足跡だけが工場の正門の方へ近寄って来ていて、足跡の主の姿はカメラに映っていない。 俺は足跡を写すカメラのスイッチを操作して、微光増幅式暗視映像を赤外線映像に切り替える。 赤外線映像にしても、足跡の主の姿は映し出され無い。 工場の正門に近寄って来た足跡は、門の前で止まった。 見えないが、足跡の主は門の前で周りを見渡しているように思える。 そして足跡を写しているカメラに気が付き、そのカメラのレンズを覗き込む。 姿は見えない、見えないが、カメラのレンズ越しに足跡の主が俺達の事を認識し見ているように感じる。
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