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「あれ? おかしいな」
スキー場から帰って来て泊まっている旅館の部屋に入り、炬燵の上を見た私は首を傾げた。
「如何したの?」
友人が声をかけて来る。
「帰って来てから食べようと思って炬燵の上に置いておいた、食べかけのお饅頭が無くなっているの」
「記憶違いで、本当は全部食べたんじゃない」
「そうなのかな…………?」
首を傾げ出かける前の事を思い返していたら、旅館の中居さんが部屋に入って来て炬燵の上に包装されたお菓子と蜜柑を数個ずつ置き、私達に声をかけて来た。
「当館のサービスですのでお食べください」
「「ありがとうございます」」
中居さんが部屋を出て行って直ぐ、窓の外を眺めていた友人が声を上げる。
「あ!?見て、見て、あそこ、あそこ」
友人の傍により指で示す所に目をやると、山裾を縫うように延びる線路上を、蒸気機関車が力強く黒煙を吹き上げ走っているのが見えた。
「一面真っ白な所を、黒煙を上げて蒸気機関車が走っていると情緒あるわね」
「本当ね」
私達は蒸気機関車の姿が視界から消えるまで見続ける。
蒸気機関車の姿が見えなくなり部屋に目を戻した結果、私のお饅頭を食べた犯人が判明した。
私達の目に、掘り炬燵が布団の下から伸ばした手で炬燵の上の蜜柑を器用に剥き、ムシャムシャと食べている姿が映ったからだ。
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