7月の日

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 景色が歪む様な猛暑の中、了二のいるオフィスはエアコンがついており、キャンプファイヤーでもしない限りは涼しくあり続けるだろう。  なんせ先週、エアコンを新調したばかりなのだ。むしろ暑くては困る。 「部長、今晩飲みに行きませんか?」  新規の顧客から送られてきた案件をまとめている最中、不意に背後から話しかけられた。 「――あー、すまん。誘いは嬉しいが今日は無理だ。また今度誘ってくれ」  中村 了二(なかむら りょうじ)は東京にある会社に勤める会社員である。  了二は三六歳という年齢ながら、その優秀さを認められてデザイン部門の部長をしている。  学生時代、アルバイト先でバイトリーダーをしていた事もあり、上司とも部下とも関わる事の多い今の役職は向いていると言えるだろう。少なくとも了二自身はそう考えている。 「中村、今日飲みに行こうぜー」 「中島、ここは会社だぞ。仕事中は敬語を使う約束を忘れたのか? と言うかお前、営業の成績がノルマに届いて無いぞ。お前が居酒屋に行くのは構わないがそれより優先すべき事があるだろう」 中島は了二とは長い付き合いで、高校生の頃からの友人である。了二と同時期に入社したのだが五年前から二年程入院しており、その影響もあってか了二とはかなり社内の立場が違っている。因みにその病気は二十年程前に巻き込まれた化学テロの後遺症であるそうだ。  ――――そういえば。  そういえば今日は、良く誘われるな。  了二は普段、そんなに酒を飲む訳でも無い。  誘われる事はさほど珍しい事でも無いが、この短時間で二回、朝から数えると五回も誘われている。  ――何かおかしい。 「中村君、今日、飲みにでも行かないか?」 「先輩……すみません。お誘いは嬉しいのですが今日はこれがこれなもんで……」  了二は小指を立てた後、両手の人差し指を天井へ向け側頭部に手をつける。日本における「嫁が怒っている」という意味のジャスチャーだ。因みにインドやロシア等では驚く程意味が違うらしい。  別に本当に嫁が怒っている訳ではない……と思うのだが了二は今日、早く帰りたいのだ。  と言うか、早く帰らなければ本当にこれがこれな事になるかもしれない。  何故なら今日は、妻である中村 恵美子(なかむら えみこ)の誕生日なのだ。
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