7月の日

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 中村恵美子は主婦である。夫である了二とは高校生の頃に付き合い始めてからずっと一緒に住んでいる。名前はもうある。           当時高校生だった恵美子は大学受験に備えて塾に通っており、そこで講師をしていた了二と出会ったのだ。 「了二さん、喜んでくれるかな?」  今日、七月二十六日は了二の誕生日である。  恵美子は若い頃から成績優秀容姿端麗、清廉潔白解語の花と、非の打ち所がない完璧美人――の様に見られており。それは恵美子自身もある程度自覚しているのだが……  残念な事に、人の誕生日を覚えられないのだ。それはもう、致命的な程に。  故に了二と付き合ってから今までただの一度も了二の誕生日を祝った事が無く、恵美子は実に、十四年もの間ある種の罪悪感を抱えてきた。  しかし今年は違う。  毎年誕生日を祝ってもらっているお返し。と言う訳では無いが、今年こそ了二の誕生日を祝おうと思う。その為に今年の正月、それとなく誕生日を聞いてスケジュール帳にメモをしておいたのだ。  とは言え恵美子は他人の誕生日など祝った事もなく、当然恵美子は、どの様に祝えば良いのか解らない。妻が夫の誕生日をどのようにして祝うのか等知る由もない。  プレゼントに関しては既に用意してある。  了二は料理が好きで、以前から新しい包丁を買いたがっている。それを知っていた恵美子は一ヵ月程アルバイトをしてお金を稼ぎ、料理教室を開いている友人と共に包丁を買いに行き、大切に保管していたのだ。  だが恵美子はどのタイミングでどのようにプレゼントを渡すべきかいまいち解らないのである。 「あーもう面倒くさい! 何とかなるでしょ何とか!」  恵美子は賢い女ではあるが――と言うか賢い人間である故か、こういう事をぶっつけ本番で何とか乗り切ろうとする癖がある。   後は、了二の好きなオムライスを用意するだけである。
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