0人が本棚に入れています
本棚に追加
了二は基本、十七時に退社している。上司が残っていては部下が帰りにくいからだ。故に了二は、自分のすべき仕事はなるべく早く終わらせる。
普段からそう心がけている了二は、既に時計の短針が南南西を指している事に少し焦りを感じていた。
今日は早く帰りたかったんだけどな。
三時間程前、部下である中島が新規の案件をとってきたのだが、それに関して顧客側が提示してきた期限が今月の最終火曜日午後二時までなのだ。
因みに今日は第四木曜日である。
素人は本当に無茶を言うのだな。と言うか、何故あいつは煙草をくれたのだろうか。
了二はデザイン部門の新人である磯部に何故か少し高級な葉巻煙草と共に渡された書類に目を通しつつふとそう考えた。とは言え、そんな事を考えた所で、仕事が片付く訳では無いのだが。
今回中島がとってきた仕事はそれなりに大きなプロジェクトの一部であり、本来であれば一ヵ月はかかるであろう仕事量である。
「何だってこんな日に……」
毎年この日のこの時間は妻の好物であるオムライスとショートケーキを恵美子と一緒に食べつつ、ささやかながらも恵美子の誕生日を祝っているのだ。
恵美子はどう思っているだろうか……
最初のコメントを投稿しよう!