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第1章 出会い
大学2年の夏、俺は人生で五本指に入るくらいの衝撃を受けていた。
なにがどう、とは説明できないのだけれど、とにかく衝撃だった。
未だかつてないほどに高揚した気分のまま右手に持っていた缶ビールに口をつける。あまりに興奮していたので、ふっと息をついた拍子に「いいなあ、」という声が漏れていたのに気が付かなかった。
隣にいた大輔に「なにがだよ」と言われてようやく、心の中のセリフが口に出ていたと自覚する。
「いや、お前らのバンド、めっちゃ格好よくて羨ましかったから。あー俺もあんなバンドで歌いてえ!」
叶わぬ願いだと口にすればさらに羨ましさが溢れて机に突っ伏した。
サークルで組んでいるバンドは大して上手くもいかず自分の歌にも自信が喪失気味で路頭に迷っている今、来年からは就活か、せっかく音大に入ったのにどーすんだよと悩みは尽きない。
そんな折に誘われたライブでこんないいものを見せられちゃ仕方ないだろと思うところである。
「え、じゃあ歌う?いいよ。」
ちょっとあいつらに言ってくるわと立ち上がった大輔を目だけで追いかけ、ようやくその意味を理解した。
「……は?」
別の奴らと喋っていたあとのメンバー2人が、大輔が指すせいで痛いほどこちらを見ているのが分かって顔を伏せた。ぬるくなったビールの缶をぐっと握りしめる。
だから俺、今自信喪失中なんだって。
歌いたいけど、申し訳なさの方が先に立つ。
でも、せっかくのチャンスだしどうせならやってみたい、と意を決して身体を起こした。
「こいつが同じガッコの柏木、歌ってくれるって。マジ俺が保証するけどめっちゃ歌上手い。」
大輔にガシッと肩を掴まれて、腹を括った。
「柏木友輝です、さっきのライブめっちゃカッコよかったっすもう本気で惚れました、ヨロシク」
ドラムの子、ベースの子と順番に握手する。2人とも両手でしっかり握ってくれて、なんかそれだけで人柄が見えるなあ、なんて思ったり。
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