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それはいつもと変わらない刺すような寒い冬の夜。
木々の茂る深い雪の合間に今にも崩れ落ちそうな一軒の山小屋があった。
その山小屋に人影が一つ。
寒くて狭い山小屋に身を隠すように数日前から男が居座り、己の体で暖を取りつつ、今もうつらうつらと微睡んでいた。
ここ最近、まともに寝ていない。
体は睡眠を欲しているはずだが小さな物音にも過敏に反応してしまう。
それも仕方の無いことだ。
男は故郷の村の大事な米を食い潰したという濡れ衣を着せられ逃亡中の身である。
やっても無いことで死んでたまるか!と男は着の身着のままで村を飛び出した。
真夜中、ザクッザクッと雪を踏みしめる音で目が覚めた。それと同時に自身の横に立て掛けておいた愛刀に手をかけつつ男は考えを巡らせた。
(……追手か?それとも、奴らか?)
その足音は数十にもなり山小屋は囲まれ逃げ道は無いだろうと考えることは容易かった。
捕まれば死罪。
静止した空間に男の息遣いがやけに大きく響いた。
それは突然だった。いつまでも続くかと思われたその時間を破る大きな声を奴らは放った。
キャアアアアアアアアアアア!
「…ふっ、はっ…鹿か」
聞き覚えのある獣の声にすぐさま男は強張った体の力を抜きまた微睡みだした。
奴らも何もせずに深い森へと帰っていった。
男の冬はまだ長い。
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