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誰もいない夜の公園に、ちらちらと雪が降り積もる。
辺りはすっかり日が落ちて、道行く人影もまばらになった。
ボクはただ呆然と、夜空に輝くオリオン座を見つめている。
冬の冷たい匂いが嗅げないのは可哀想と君が言うから、ボクの鼻はニンジン。
ホンモノじゃないけれど、君が舐めていたアメの匂い、ボクにはちゃんとわかるよ。
せっかく遊んでいるのに無表情なのは可哀想と君が言うから、ボクの口は小枝。
ホンモノじゃないけれど、君と遊んだことが楽しくて、ボクは心から笑ったよ。
冬の透き通った夜空の星が見られないのは可哀想と君が言うから、ボクの目は小石。
ホンモノじゃないけれど、ボクは君が本当は悲しい気持ちだったこと、ちゃんとわかったよ。
明日、この街を去る君は、うまくお別れの言葉を言えないで、泣きたい気持ちを我慢して一生懸命笑ってた。
ボクには心臓はないけれど、心はあるよ。
だからボクは、ホンモノじゃないけれど、君がくれたぬくもりをいつまでも忘れないよ。
いつかからだは溶けてしまうけれど、それでも願い続けるよ。
“君が新しい街でいつまでも、心の底から笑っていられますように”
誰もいない夜の公園に、ちらちらと雪が降り積もる。
冬の夜空に瞬くオリオン座だけが、汚れのない純白の裸体を照らしている。
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