第1話 池元班

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私は捜査会議に参加しながら、この男を見ていた。 ただ、立ち尽くしているこの男に。 正確には報告を立ったまま聞いていた。 だけど、彼が手に持ってるものに違和感を感じたのだ。 手には紙コップを持ち、更には小さな紙袋を片腕で抱えていた。 その紙袋に見覚えがあった。 あれは私が買ってきたドーナツ店の紙袋だった。 そして男は袋から取り出したのもドーナツだった。 だけど、さっきお店でこの男を見かけてはいない。 という事は池元係長が彼に渡したのか? だとすれば私は彼にドーナツを買いに行かされたという事になる。 一体、なんの為に……… 疑問が疑問を呼ぶ中、男は私の苦悩なんか知らずにショコラフレンチを手にしながら、それを幸せそうに食べていた。 私はその姿に憤りを感じ得ずにはいられなかった。 真面目に報告を聞かず、ただドーナツを食べる。 この人は事件の内容を聞くよりもドーナツを食べる事に集中しており、何しにここに来たのかと首を傾げた。 すると、男と目が合った。 私はすぐに顔ごと背け、本多一課長の方へと戻した。 今はこの男が何者かは分からない。 刑事に変わりはないが今は会議に集中しないと……
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