822人が本棚に入れています
本棚に追加
「このボートが何か?」
私は終始、ボートを見つめている影原警部補に聞いてみた。
すると逆に尋ねられた。
「お前はこれを見てどう思う?」
私は少しだけ驚くも、とりあえずボートを見た時の第一印象を答えた。
「沈みかけの古びたボートですね。事件とは関係なさそう」
「それだけか?」
「はい」
私は首を縦に頷いた。
すると彼は渋い顔をして、ボートから離れた。
私は再び、警部補の後を追った。
「だって、本当の事でしょ。犯人はここに皮を捨てただけなんだから」
私はそう告げた瞬間、影原警部補はピタリと立ち止まった。
そして後ろを振り返り、鋭いキツネ目を光らせながら私に聞いてきた。
「本当にそう思うか?」
「えっ?」
「“犯人はここに皮を捨てた”……本当にそれが真実だと思うのか?」
警部補の鋭い眼光に私は息を飲んだ。
今まで甘いお菓子を食べる童の様な目は消えていた。
まるで蛇に睨まれた蛙だった。
だけど、ここで立ち尽くしてはいけない。
とりあえず、この事件まではこの人とコンビを組むのだから………
私は勇気を振り絞って聞いてみた。
「け、警部補はどういうお考えなのですか?」
最初のコメントを投稿しよう!