第2話 捜査一課で最も自由な男

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通報者は荻窪の団地に住んでおり、40代の主婦だった。 奥さんは突然の私達の訪問にも快く歓迎してくれた。 「お前が聞き込みしろ。フォローはしてやる」 影原警部補はインターフォンを鳴らす前に言ってくれた。 玄関先で緊張の中、私は聞き込みを始めた。 聞きこみは交番でも何度も経験した。 行方不明の子猫を探したり、迷子の子供の家を探すのにも聞き込みをした。 だけど、殺人事件の聞き込みは初めてだった。 「通報した時間は午前5時頃でしたが、その時、あなたは何をしておられましたか?」 「動画を見てました。いつも4時過ぎに起きて主人の朝ごはんの支度をしますの。主人が仕事に行ったあとは次は子供の朝食なんだけど、いつも起きるのは7時頃なの。だから、洗濯を済ませて、その間の暇つぶしに動画を見ました」 「いつも、それは日課としているのですか?」 「ええ、気に入ってるYouTuberがおりまして。その人の配信を見ようとパソコンを開いたら、更新されていたので再生したら、人の皮膚が映っていました」 「どうして、あれが人の皮膚だと分かったんです?作り物だとは思わなかったのですか?」 この問いに奥さんは顔色を変えた。 笑顔が急に消え、細い目になりながら私を睨みつけた。 「もしかして、私を疑ってるの?」 ――しまったっ! つい先んじて、通報者を疑ってしまった。 私は慌てて訂正しようとした。
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