第2話 捜査一課で最も自由な男

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「いえ、決してそのよ……うぐっ!」 しかし、それを影原警部補が私の口を塞ぎ、前に出た。 「そんな訳ないじゃないですか。あなたの様なを疑うバカどこにいるんですか?」 「善良な市民……」 「そうですよ。人の皮膚だけが無残にも映し出される映像が他の人も見ていたのに誰も通報しなかった。作り物だと思っていたからです。要するに恥をかきたくないからでしょう。それなのにあなたは恥を覚悟で警察に通報した。いやー、その心意気は立派です」 影原警部補のおべっかにより、奥さんの機嫌が少しづつ回復してきた。 終始、への字の奥さんだったが段々と笑みが浮かんできた。 「実は先月まで皮膚科の病院に通っていたんです。病院にはほら、皮膚に関する本やらポスターが貼られてあるでしょ?私、待ち合わせの暇つぶしにそれらを読んだり、目を通すんです」 「なるほど。因みにその動画はまだ残ってますか?」 「いいえ。事件があったその直後に削除されましたよ」 「ではその動画配信者のURLまたはアカウント名を教えてはもらえませんか?」 「分かりました。ちょっと待ってて」 そう言って、奥さんは奥の方へと歩いって行った。 玄関で影原警部補は私に言った。 「警察は国家権力を傘にたて、つい上から目線になってしまう。だから一般人から『税金泥棒』とバカにされるんだ。でも逆に褒めちぎれば「自分は良い事をしたんだ」と誇りが生まれる。警察の協力者への聞き込みはそうやってやるんだ。覚えておけ」 「はい」 私は先程の聞き込みを反省し、深く頷いた。 それから奥さんが戻ってきて、URLの書かれたメモ用紙を影原警部補に渡した。 私達は奥さんにお礼を述べた後、車へと戻った。
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