黒猫

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 私はもう一度男性に尋ねる。  「彰は、その轢かれた男性が搬送された病院ってどこですか」  「私もそばで見ていただけでそこまでは確認しておらず、お答えすることができません。あなたはお姉さまでしょうか。親族の方であれば後に連絡がいくと思われますが」  彰の搬送先の病院はわからない。しかし、じっとしていることも出来ず、男性に事故の起こった場所を聞いた。男性は周りを確認したのか少し間が空いてから「神田交差点前です」と答えた。  神田交差点、私の家から自転車で十五分くらいの距離だっただろうか。  「わざわざご連絡ありがとうございます。その携帯電話を受け取りに行きたいのですが、お待ちしていただくことはできますか」  「申し訳ありません。私の方も用事がありまして、すぐにここを発たねばなりません。近くにコンビニがあるのでそちらの店員さんにお預かりしていただくのはどうでしょうか」  相手の提案を受け入れて電話を切ると、急いで家を出た。玄関を飛び出して車庫に向かい、車の横に停まってある自転車を引っ張り出す。鍵は常に開けっ放しにしてあるので、すぐにサドルに跨って漕ぎ出す。  神田交差点までは住宅地を抜けて三回曲がるだけだ。余裕のない私は終始立ち漕ぎで目的地に急いだ。
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