キャットウォーク ー 変わりゆく中で

2/17
112人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
 加奈が動き出す物音で僕らは起きたがクロさんは目を開けない。加奈は僕らを気遣って膝の上からゆっくりと地面に下ろしてくれた。その気遣いに応えるためかクロさんは再び眠りについた。  体感五分ほど経った頃にもう一度目を覚ます。周りを見回すが加奈の姿はない。  「メシでも食いにいったか」  「かもしれませんね。これからどうしますか」  「とりあえずは癒やしを与えるのと情報収集だ」  「情報収集ですか。癒やしを与えるっていうのはわかりますけど、情報収集はなにをするんですか」  「多少ニュアンスが違ったかもしれんな。情報収集と言うよりも経過観察に近い。これから加奈の周りでは色々なことが変わっていくだろう。良いこともあれば悪いこともある。最悪の状況も有り得る。そういった時にわしらが対処できるようにしておかねばなるまい」  「なるほど。でも閉じ込められちゃいましたよ」  僕は閉まっているドアに視線を移した。人間の目から見ればなんともないドアもこの視線からでは大きな壁だ。  「わしの見立てでは加奈は優しい子だ。ずっと閉じ込めておくということはなかろう。そうだろう彰」  「たしかに加奈は気遣いのできる子です。でも、恋人が亡くなった後にそこまで開放的に優しくできるのかと言うと懸念を抱きます」  僕はもし自分だったらどうなるだろうかと想像してみる。周りに優しさを振りまくだけの余裕があるだろうか。僕にはそれだけの強さがあるのだろうか。  「クロさんは自分を強く保てますか」  「無理だ」  即答だった。僕が答えを出せずに聞いた質問に迷いなく答えた。これが人生経験の差なのだろうか。  「一人では立ち直ることなどできん。だからこそ、加奈にはわしらが必要なのだ。絶対に立ち直らせる。あれは……強い子だ」  クロさんが呟いたタイミングでドアが開いて加奈が入ってきた。  「それに部屋を抜け出る方法なんていくらでもあるさ」  クロさんは開いたドアを見ながらいたずらを楽しみにする子供のように笑った。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!