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加奈は僕らに笑いかけるとベッドに潜り込み、照明を消した。
「さて、試してみるか」
クロさんはドアの前まで移動するとドアを軽く引っ掻き始めた。
「なにしてるんですか」
「実験だ」
ドアを何度か引っ掻くと加奈は起き上がり、ドアを開けてくれる。
「開いたぞ」
クロさんは部屋から出ると軽やかに階段を降りた。猫の足音って本当にしないものなんだなと感心する。昔、僕の近所にいた猫の足音は聞こえたんだけどな。自然に足音を消しているのか、それとも神経を遣っているのか、どちらだろう。加奈も小さな足音で後を追ってくる。
「さて、ここからが本当の目的だがどちらだろうか」
眼の前には玄関の扉がある。僕らは振り返り、加奈にアイコンタクトを取った。彼女の心の傷はどれほどのものなのだろうか。この扉を開けるかどうかで彼女の心の傷の深さがわかる。そして彼女は扉を開けてくれた。僕は彼女がこの扉を開けてくれたことに安堵する。そして僕らは開かれた扉から外に出た。外に出る寸前で加奈は僕らに注意を促した。
「気にはしているがなんとかなりそうだぞ」
「はい、安心しました」
「安心しきるのは時期尚早だ。これから何度もお前との思い出を加奈は思い出す。その度に落ち込むことだろう」
クロさんのその言葉に緩んでいた僕の気持ちは再び引き締まる。そんな僕を鼓舞するかのごとく、クロさんはしっかりとした足取りで夜の町を歩んでいく。夜の静寂が僕を包む。それは心地よい静寂で僕はこの夜をずっと身に纏っていたいと思った。
「ところでこれからどうするんですか」
「とりあえず住処にでも行こうか」
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