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住処に戻ると昼間以上の猫が集まっていた。パッと見で昼間の倍近くいるかもしれない。クロさんは猫の集団を左右に割るように雄々しく真っ直ぐ奥へと進んでいく。すれ違う猫達は皆クロさんに一言挨拶をする。奥へと進んでいる途中で一匹の猫が壁となり、クロさんの歩みは止った。眼の前にいるのは大柄のトラ猫だ。
「どいてくれセイジ」
「人間の言いなりが俺たちのリーダーかよ」
僕は思い出す。このセイジと呼ばれたトラ猫は以前もクロさんに難癖をつけていた奴だ。クロさんは寛容に接しているが僕のこいつへの印象は良くない。
「言いなりになどなっとらん。どうしてそう人間を毛嫌いする。まさか人間と接することができるわしが羨ましいか」
「馬鹿言うんじゃねぇよ。人間なんかに関わってもロクなことにならねぇ。俺たちはそのことをよくわかってるだろうが」
セイジは鋭い目でクロさんを睨みつける。だが、クロさんもその視線に負けじと鋭い眼光で応酬する。周りの猫達が一波乱起きるかもしれないと固唾を呑んで見つめている。眼を先に逸したのはセイジだった。勝手にしやがれと吐き捨て、壁を乗り越えてどこかへ行ってしまった。そして現れた道をクロさんは堂々と歩む。
「色々と事情があるんだ。悪いやつじゃない」
クロさんはなぜだかセイジのことをフォローする。まだ僕には敵意を向けられてる相手を庇うだけの心の広さはないので、その心境は理解ができなかった。
「だが、あいつにこの道は譲れん。まだあいつには早いのだ」
そしてクロさんは目的の位置に辿り着き、大きな木箱に登ると後ろを振り返り、静かな声で話し始めた。
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