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「なにも入ってなかったんですか」
「報告ではそういうことになっている」
あの紙袋の中には白い箱が入っていた。そしてその中に加奈へのプレゼントが大切に仕舞われていたはずなのだ。
「時間はある。確認しに行くか」
「お願いします」
クロさんは路地裏から表通りへと抜けていく。その途中でセイジとすれ違い、すれ違う瞬間「変な気は起こすなよ」と囁くような声で釘を指したのだった。釘を刺されたセイジは忌々しそうににこちらを睨め付けていた。
三毛猫のお気に入りの場所というところに、三毛猫よりもひと足早く着いた。鬱蒼とした木々が生い茂り、不気味な場所だ。人気もなく、物を隠すには確かに打って付けの場所だ。三毛猫よりも先の到着だったので荷物はまだない。
「ここで待っていればタクマはそのうちくるだろう」
「彼の名前、タクマって言うんですね」
「あいつの名前を口にするのは初めてだったか。あそこにいるほとんどのやつにはわしが名を授けた」
「そうなんですか」
「タクマには逞しく育って欲しいからそう名付けた。安直だがな」
「加奈よりは立派な理由だと思いますよ」
「そうかもしれん」
僕とクロさんは思わずくすくすと笑う。黒いからクロなんて幼稚園児でも付けられる名前だ。でもその名前は今や一つの命をしっかりと示している。僕は自分の子供に名前を付けるとしたらなんて付けるだろうかと考えたが、すぐにやめた。そんな未来はもうないのだから。
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