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「あいつの母親は飼い猫だったらしい。そしてどこかの男と子を作り、あいつが生まれた。四つ子だったらしい。そしてすぐに飼い主の手で捨てられた。紙の箱に兄妹と一緒に積められて川に放り出された。そしてそれを見つけたわしがあいつを救った。だが、救えたのはタクマのみだった」
語るクロさんは悲しそうに、そして悔しそうな顔をしていた。きっと他の兄妹も救いたかったのだろう。でも、僕はクロさんが苦しむ必要はないと思った。
「川に飛び込んだんですね。それだけでもすごいことなのに命を救ったんですよ。周りがなんと言おうと誇るべきことじゃないですか」
「確かに失われるはずだった命を全てではないが救うことはできた。だが、それだけじゃダメだったんだ。あいつは極度に水を恐れている。兄妹の命を奪った水がトラウマになってしまっているんだ。わしはそのトラウマを消してやることはできない」
なんて言葉を掛けようかと僕が悩んでいると、木々の間を縫うようにタクマが現れた。口には僕のショルダーバックと青い紙袋が一緒に咥えられている。
「待ってたぞ」
「なんでボスがここに」
予想もしていなかっただろうこの状況にタクマは呆気に取られている。
「実際の荷物はどんなものなのか実際に見て確認しておきたくてな。これで全部か」
「とりあえずあの周辺に落ちていたのはこの二つだけですが」
タクマが咥えていた荷物を地面にゆっくりと置く。バックの上に紙袋がノッているので風が吹いたらどこかへ飛ばされてしまいそうだ。そして紙袋は折り目に沿って、元の形に潰れている。
「この紙袋はなにに使うんですかね。中に猫を積めて捨てるのかな」
「タクマ」
自嘲気味な発言をするタクマをクロさんが厳しい声で一喝する。
「冗談ですよ。これで確認もできましたよね。隠してしまってもいいですか」
クロさんが頷くとタクマは荷物を咥えて森の奥へと消えていった。
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