黒猫

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 「違うって言ってるじゃん」  「だったらなんで隠すのよ。やましいことがあるんでしょ」  電話越しに話す相手は彼氏の彰。今すぐ会いたいと頼んでいるのだが、ここのところどうにも都合が悪いらしく、断られてばかりだ。  「僕にだって予定があるんだ。悪いんだけど今日のところは我慢して」  「先週も同じこと言って、会ってくれなかったよ」  浮気を疑ってしまう私は不安が募り、強く問い詰めてしまう。そうしなきゃ今にも泣いてしまいそうだった。  「言えないようなことじゃないけど、言いた」  彰が口を不意に止めた。その直後、電話を落としたのかガチャンと耳障りな衝撃音がした後、ドンという鈍い音を最後に通話は切れた。  突如切られた携帯の画面を見て、私は困惑する。  「彰…」  何が起こったのだろうか。  今の鈍い音に、携帯を落とすような状況、頭を過るのは悪い予感ばかり。電話をかけなおしてみるも、電子音声が通話できない旨を知らせてくるだけだった。  戸惑いながらもソファから立ち上がる。しかし、どうすればいいのかわからず、焦燥感に駆られて落ち着きなく部屋の中を右往左往するしかない。  しばらくそうしていると電話が鳴った。先程、彰にかけ直してから時計の長針は数字を二つばかり過ぎていた。  急いで電話にでる。  「どうしたの大丈夫なにがあったの」  居ても立っても居られなかった私は思わずマシンガントークで彰の様子を聞こうとしてしまった。しかし電話の向こうから聞こえてきたのは彰ではな、別の男性のものだった。  「初めまして、私はこの携帯電話を拾った者です。どうか落ち着いて聞いてください。先程、この携帯電話を使用していた男性はトラックに轢かれて救急車で搬送されました」  サーッと血の気が引き、目の前が真っ暗になる。その衝撃から携帯を落としかけてしまう。  彰がトラックに轢かれた。さっき聞こえたあの鈍い音はもしかしてその時のものなのだろうか……  ハッと我に返ると急いで相手に確認した。  「持ち主の人は大丈夫なんですか」  「安否状況は詳しくはわかりません。ただ、交通速度以上のスピードをだしていたトラックとの衝突だったらしく、最悪の事態もありえるかと……」  スピードの出ていた大型車との激突事故、無事な筈がない。いや、でも、もしかしたらということもある。希望は捨てたくない。
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