第一章 とりあえず、彼女との関係を語っとこう

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 しかし、綺嶋は何故だか彼女に惹かれていた。そう、彼女の返事の声だ。それは、彼に自然と背筋を張らせた。一見、姿勢よく座っているように見せて、実の所、校長や生徒代表の訓示に興味を示さず、一切の話を遮断している彼だけれど、今、壇上に上った彼女の話を訊こうと、そう思わされた。   何を言うのだろうか。彼の目は今、妙に熱っぽく煌いている。 「にゃーん、皆さんこんにちはー」  良く通る声で、彼女はそう言った。場が凍りつき、皆が唖然とした表情を向ける。  だけれど、その後一瞬の間を置いて、彼女は普通の、所謂新入生の心意気のようなものを語り始めた。 「新入生代表、枠森葵。桜が云々、天気が云々、学び舎が云々、素晴らしい先輩達、先生方云々、その他云々かんぬん」  場に、ほっとした雰囲気が流れる。皆、あれはなかったことにしよう、と考えているようである。よくよく考えれば、ちょっとしたユーモアじゃないか、新入生はこれくらいの元気がないとなあ、なんてね。  枠森葵、綺嶋は心の中で、その言葉を繰り返した。多分、最初のあれは、彼女なりの抵抗だったのだろうな、と考えると、何だかとても面白く、綺嶋は気づかれないようにくすくすと笑った。 3     
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