第一章 とりあえず、彼女との関係を語っとこう

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第一章 とりあえず、彼女との関係を語っとこう

1  何故、こんなことになってしまったのだろうか。  綺嶋(きしま)秋(しゅう)は、隣に座っている枠森(わくもり)葵(あおい)の小さな肩を抱く。夜空には満月が昇り、星がそれを飾り立てている。こんなにも綺麗な星空の元で、なんで僕らだけがこんな目に遭わなければいけないのか。その廻る問答は、結局の所、理不尽という言葉に収束するのだ。  自然と目からは涙が溢れて、空がかすんだ。透明な、悲しみのヴェール。  ここは森の中。全てが寒々しくて。  綺嶋と彼女の間には、言葉はない。  この悲劇を、言葉で言い表すのは不可能なのだった。 2  悲劇を語るには、とりあえず、初めから語るとしよう。  約半年前、春。  壇上に、一人の女が立っている。入学式、厳つい教頭のドスの利いた声に応じて、彼女は全校生徒の前に立った。黒髪にウェーブがかかっている。綺嶋は目があまりよくなく、だけれど、眼鏡をかけるのがあまり好きではなかった。少なくとも、こういう、フォーマルな場では、彼は眼鏡をかけない。だから、彼女の姿はぼやけて、その程度の特徴しか掴めなかった。     
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