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例年通り
「まず、バレンタインが恋人のための祭典になっているのが気に食わない!」
鼻息を荒らげながらそう言い放ったのは、彼女いない歴=年齢の俺の幼馴染・井上亮太だ。彼は親でも殺されたかのような勢いで言葉を続ける。
「バレンタインが何の日か知ってるか!?キリスト教の司祭バレンタインが、ローマ皇帝の迫害されて殉教した日なんだぞ!?人が死んだ日によくカップルでラブラブできるよな!!」
テーブルを叩いて鼻息と声を荒らげる亮太はまるで闘牛だ。あるいはゴリラか。
毎年この日になると普段行動を共にする仲である俺たちは独り身に耐えられなくなっていずれかの家に集結し、腹いせにバカ騒ぎする。今年は俺の家に、かなり遠くに住んでる奴もいるなか電車を乗り継いでわざわざ集まってきた。その必死さが非リアであることの辛さを物語っている。
「なあ湊、そう思うよな!?」
亮太はゴリラのような必死な形相で俺・佐久間湊に詰め寄ってきた。
「お、おう。そうかもな……」
正直バレンタイン自体に恨みも無ければ興味もない俺は適当に返事する。俺のそんな対応に亮太は「そうだろう、そうだろう」と満足げに頷いている。
「よって、人の命日にデートという不埒な行為に及ぶのは不謹慎だ。俺たちみたいにしているのが正しい!」
「それは違うな」
亮太がドヤ顔で語り終えた結論を覆す者が現れた。クラス1の秀才でありながら顔面が生理的に無理と女子の間で評判の高梨遥斗だ。ちなみに、遥斗という名も顔面と釣り合わなすぎると影で女子にコソコソ言われている。
「なんだ遥斗!お前はバレンタインという邪なる祭典に賛成だとでも言うのか!?」
「それも違う。俺もバレンタインは大嫌いだ。俺が違うと言ったのは、バレンタインが不謹慎だという井上の意見についてだ」
遥斗は、亮太とは対照的に落ち着き払った様子で続ける。
「祭司バレンタインが殉教したのは、結婚を禁じられた兵士を隠れて結婚させてやっていたからだ。当時2月15日は……」
ここから15分ほど、遥斗の解説は続いた。
……飽きた。
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