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バレンタインデーの朝、授業が始まる前の短い時間。いつものように仲良しの5人で集まってお喋りをする。
「ええっ、志保、もう先輩に告白したの?」
「うん。だって早く言いたかったしー、待ちきれなくて」
さすが、と私を含めた4人が声を揃えた。
「で、返事なんて?」
「ちょっと考えさせてほしいって」
「うわあーそれ拷問じゃん!」
えへへ、と志保が頭をかいて笑う。惚れっぽくて、まっすぐで、好きになったら後先考えずに行動するタイプ。別れたって泣いてた次の日にはもう気になる人がいたり、とにかく忙しい。
「亜由美と璃子はいいよねー彼氏がいるし」
「まあねー」
「でもあいつ誰にでも優しいしモテちゃうからさ」
「出たよ彼氏自慢」
あはは、と笑っていると、
「由奈は?どうするの?」
「えっ?」
急に自分に話題が向けられて、ドキリとする。
「隼人にチョコあげるんでしょ?」
と菜月が覗き込んで言う。
「あげないよー今さら。幼馴染だし」
私は慌てて否定するけれど、
「この前渡そうかなって言ってたじゃん」
「どうせたくさんもらうんだろうし、私のなんていらないって」
「またぁー、意地はってると他の子にとられちゃうよ?」
うっ……と言葉に詰まってしまうのは、この間、確かに自分でそう言ったのを覚えているから。
誰にチョコをあげるかって話で、隼人にでもあげようかなって。
隼人はモテる。ぶっきらぼうだけど優しいし、部活でバスケをしているときは、かっこいいって言われるのもわかるような気がする。でも、隼人にバレンタインチョコをあげたことなんて一度もない。
「そういう菜月はどうなの?」
「えー、あたしはどっちかっていうともらうほうだし」
冗談めいた言葉に、「たしかに」と思わず納得してしまう。
菜月は女子バスケ部のエースで、部活に専念したいから彼氏なんていらない、といつも言っている。代わりに女子のファンが多くて、去年のバレンタインも女子からたくさんチョコをもらってた。
そんなふうに、恋愛なんて興味ないって、あっさり言ってのける菜月をすごいと思う。
私は苦手だから。誰かが好きとか好きじゃないとか、自分の気持ちをうまく言葉にすることって、すごく難しい。
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