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2章 それぞれの過去
***
私の父は、優しくて、大きくて、暖かくて。
私の中で一番の存在だった。
そんな父が亡くなった。
私が小学五年のとき。
原因は交通事故。
しかし、母の切り替えは驚くほど早く、これが母親の強さなんだと思い込んでいた。
しかし数ヵ月後、母は男をつれてきた。
「誰、その人」
「紅羽の新しいパパよ」
えっ、ちょっと待って
「お母さんは、お父さんのこと、忘れたの?」
「あー、あの人?めんどくさかったのよね、おもいっていうか。とにかく私はこの人のことが好きなの」
「嘘でしょ?」
「ごちゃごちゃうるさいわね。自分の部屋に行っときなさい。ごめんね~、今あの子反抗期で~」
母が男に甘えたように撓垂れかかる。
その瞬間、父がこの家から消えた気がして、悲しくなった。
ある時、母が出掛けていて、男と二人きりになった。
「ねえ、紅羽ちゃん。お昼、どうしようか?」
返事はしない。この家に来てから、男は私にやたらと話しかけてくる。
「ねえ、紅羽ちゃん。入るよ」
「だめ」
いつもならここで諦めてくれるのだが、今日は違った。
ガチャ
「えっ!駄目って言ったじゃん!」
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