2章 それぞれの過去

1/15
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/123ページ

2章 それぞれの過去

*** 私の父は、優しくて、大きくて、暖かくて。 私の中で一番の存在だった。 そんな父が亡くなった。 私が小学五年のとき。 原因は交通事故。 しかし、母の切り替えは驚くほど早く、これが母親の強さなんだと思い込んでいた。 しかし数ヵ月後、母は男をつれてきた。 「誰、その人」 「紅羽の新しいパパよ」 えっ、ちょっと待って 「お母さんは、お父さんのこと、忘れたの?」 「あー、あの人?めんどくさかったのよね、おもいっていうか。とにかく私はこの人のことが好きなの」 「嘘でしょ?」 「ごちゃごちゃうるさいわね。自分の部屋に行っときなさい。ごめんね~、今あの子反抗期で~」 母が男に甘えたように撓垂れかかる。 その瞬間、父がこの家から消えた気がして、悲しくなった。 ある時、母が出掛けていて、男と二人きりになった。 「ねえ、紅羽ちゃん。お昼、どうしようか?」 返事はしない。この家に来てから、男は私にやたらと話しかけてくる。 「ねえ、紅羽ちゃん。入るよ」 「だめ」 いつもならここで諦めてくれるのだが、今日は違った。 ガチャ 「えっ!駄目って言ったじゃん!」     
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!