通り抜けデート

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 放課後、電車で天満橋に行った。 「造幣局? まだ咲いてるの?」 「毎年一般公開されてんねん。桜言うても八重やで」  通り抜けという名前の通り、花見のようにシートを敷いて宴会しながら花を見るというものではなくて、本当に立ち留まらずにゆっくり眺めながら歩いて枝の下を通り抜けるというものだ。  川沿いには屋台がずらりと並んでいて人も多い。 「デートやな」と奴は笑う。  そうだね、とたくさんの屋台が嬉しくなってうなずいたら、何故だか赤くなって「その顔は反則やろ」とぶつぶつ言っている。  八重桜はきれいだった。  まるいお菓子みたいなピンクのふわふわがたくさん枝についている。 「かわいい感じだね」 「お前のほうがかわいーわ」  時々こういう冗談を言う。 「ホンマ? おおきに」  聞いた奴がくすっと笑って、かっこいい顔がやわらかい雰囲気になる。 「大阪弁が上達せんなあ」  アクセントが違ったらしい。 「そういうとこも好きやけど」 「ホンマ? ありがとう」  今度は完璧な大阪アクセントで言えた。  やったと隣の奴を見上げたら、眉を下げて仕方なさそうに笑った。  完
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