前途多難な思い人

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転校先の大阪はフレンドリーな奴が多かった。 中でも転校初日からやたら構ってくるのが一人いる。 背が高くて顔もかっこいいのに、お笑いもできるようですごい奴だ。 「なあ、たこ焼き食べに行かへん?」 本場のたこ焼きには興味がわいて、ついていったらぼろいプレハブ小屋みたいな店に連れて行かれた。 「おう、久しぶりやな」 「友達連れてきてん」 「ほお、えらいべっぴんさんやな」 「やろ。たこ焼き四人前な」 「まいどっ」 「二人なのに四人前?」  「一皿八個やで? 腹にたまらんわ」 端っこの席に横並びに座って、たこ焼きを待つ。 「はい、お待たせ」 「熱いから気ぃつけや」 「うん、ありがと」 「あっつ……っ」 気をつけろと言われたのに、たこ焼きの中がこんなにとろとろで熱いとは知らなかった。 「だいじょぶか? やけどした?」 「んー、ちょっとね。舌先がひりひりするだけ」 「見してみ?」 素直に舌を出したら、あろうことか、奴は僕の舌をぺろりと舐めた。 「ほら、舐めたったからすぐ治るで」 固まる僕に至って平然と奴は言い、頭まで撫でてきた。 「中が熱いから、ゆっくり食べや」 「…うん」 え、これ普通? 大阪では普通なのか? そっと周囲を見回せば、何事もなかったかのようにみんなたこ焼きをつついている。 そうか、こういうものなのか。 今度はやけどしないよう、注意してフーフーと冷ましながら口に運んだ。
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