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「なにを楽しそうにおしゃべりしてるんだ。仲間外れは勘弁しろ。おれも混ぜてくれよ」
地上のジャン・ピエール・スクラポンから暗号無線がはいった。クニがいった。
「今、好きな女子の名前を告白してたとこだ。ジャン、おまえもはいるか」
「ははは、おまえのナンパ振りだけは変わらないな、クニ。だけど、タツオ、おまえはなにかが変わったなあ。どことは指摘できないんだが、甘さが消えて軍人らしくなった」
ということは失ったものがたくさんあったのだろう。五十嵐高紀がタツオの命を守るために死に、東園寺崋山をこの手で心臓が裂けるほどの打撃で打ち殺し、親友の菱川浄児も戦闘訓練中の森林火災で絶望的になった。身の回りで発生した多くの死が、タツオから甘さを削ぎ落していったのかもしれない。死は一方通行だった。死を経験する前には決して戻れないのだ。タツオは皮肉に笑っていった。
「そうかもしれない。ほめ言葉と受けとっておくよ、ジャン」
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