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「でも……」
悩んでいては、短い休み時間が終わってしまう。俺はカコの手のひらから鍵を奪い取り、ジャカルタの元へ走った。
「先生、準備室の鍵が壊れました」
「あー? 何でそんなもんが壊れるんじゃ」
「ドアの方の鍵本体が、古くなっとったんだと思います」
ジャカルタが睨む。完全に俺を疑っている。
「来い!」
ジャカルタに引っ張られ、俺は理科室に戻された。カコの姿はもうなかった。
(よかった……)
準備室の前に着くと、ジャカルタはガチャガチャと鍵やドアを動かし始めた。
「見てみい! こんなもんが壊れたのは初めてだわいや! おめぇがわざと壊したんだらぁが!」
「壊してへん、壊れたんです!」
俺はジャカルタを睨んだ。とたん……
〈バッチィーーーン!〉
吹っ飛ぶ俺。ゴツゴツしたジャカルタの手のひらから、思いっきりビンタが飛んで来た。
「問答無用じゃ、修理代はお前の親に請求したるからなぁ!」
怒りを噛み殺し睨む俺に ジャカルタは続けた。
「もうえぇ、次の授業が始まるわ、教室に戻れ!」
次の授業は本教室だったし、優先するのはカコを守ることだ。
かなり理不尽な対応を取られてはいるが、ボロが出る前に戻った方が賢明な気がした。
(くそ! ジャカルタ! 調子のっとんなよ……。いつかやり返しちゃるでなぁ……)
悔しいながらも自分に言い聞かせ、俺は1組の教室に向かい歩き始めた。
だが、ジャカルタの制裁は、これで終わってはいなかった……。
教室に戻り、ビンタされた頬を隠すように俺は自分の席についた。
すると、涙目のカコがすぐさま駆け寄ってきた。
「どうなったん? ゴメンよ、ほんまにゴメン……」
〈キーンコーンカーンコーン♪ キーンコーンカーンコーン?〉
〈ガラッ〉
始業のチャイムが鳴り、俺が言葉を返す前に ドアからジャカルタが入ってきた。
ザワついていた教室は一気に静まり返り、慌てて全員が席についた。
「し~ま~い~。ちょっと前出え」
静かに、しかしどこか怒気を帯びた声で、ジャカルタが俺を呼んだ。
背中越しだが、心配そうにカコがこちらを見ているのがわかった……。
前に出ると、黒板に背を向けるように教室の正面に立たされた。
「あんなぁ、お前らぁ。さっき日直の島井が準備室の鍵を閉めたらなぁ、鍵が折れてもうたらしいわぁ」
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