S#3 「ジャカルタ」… 岩田 茂雄

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「でも……」 悩んでいては、短い休み時間が終わってしまう。俺はカコの手のひらから鍵を奪い取り、ジャカルタの元へ走った。 「先生、準備室の鍵が壊れました」 「あー? 何でそんなもんが壊れるんじゃ」 「ドアの方の鍵本体が、古くなっとったんだと思います」 ジャカルタが睨む。完全に俺を疑っている。 「来い!」 ジャカルタに引っ張られ、俺は理科室に戻された。カコの姿はもうなかった。 (よかった……) 準備室の前に着くと、ジャカルタはガチャガチャと鍵やドアを動かし始めた。 「見てみい! こんなもんが壊れたのは初めてだわいや! おめぇがわざと壊したんだらぁが!」 「壊してへん、壊れたんです!」 俺はジャカルタを睨んだ。とたん…… 〈バッチィーーーン!〉 吹っ飛ぶ俺。ゴツゴツしたジャカルタの手のひらから、思いっきりビンタが飛んで来た。 「問答無用じゃ、修理代はお前の親に請求したるからなぁ!」 怒りを噛み殺し睨む俺に ジャカルタは続けた。 「もうえぇ、次の授業が始まるわ、教室に戻れ!」 次の授業は本教室だったし、優先するのはカコを守ることだ。 かなり理不尽な対応を取られてはいるが、ボロが出る前に戻った方が賢明な気がした。 (くそ! ジャカルタ! 調子のっとんなよ……。いつかやり返しちゃるでなぁ……) 悔しいながらも自分に言い聞かせ、俺は1組の教室に向かい歩き始めた。 だが、ジャカルタの制裁は、これで終わってはいなかった……。 教室に戻り、ビンタされた頬を隠すように俺は自分の席についた。 すると、涙目のカコがすぐさま駆け寄ってきた。 「どうなったん? ゴメンよ、ほんまにゴメン……」 〈キーンコーンカーンコーン♪ キーンコーンカーンコーン?〉 〈ガラッ〉 始業のチャイムが鳴り、俺が言葉を返す前に ドアからジャカルタが入ってきた。 ザワついていた教室は一気に静まり返り、慌てて全員が席についた。 「し~ま~い~。ちょっと前出え」 静かに、しかしどこか怒気を帯びた声で、ジャカルタが俺を呼んだ。 背中越しだが、心配そうにカコがこちらを見ているのがわかった……。 前に出ると、黒板に背を向けるように教室の正面に立たされた。 「あんなぁ、お前らぁ。さっき日直の島井が準備室の鍵を閉めたらなぁ、鍵が折れてもうたらしいわぁ」
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