S#3 「ジャカルタ」… 岩田 茂雄

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指を二センチほど広げ前に出し、先ほどより強い口調でジャカルタは続けた。 「鍵ってこんなんやぞ、こんなん! 普通にドア閉めてぇ折れる訳ないやろう! なぁ、島井く~ん。お前がわざと壊したんやんなぁ~」 流石に相手が俺だというだけで、ここまで決めつけられるとは思ってもみなかった。 悔しくて ギュッと拳を握り締めた。 だが、こうなったジャカルタに何を言っても無駄なのはわかっていた。 そしてこの後、自分がどんな目にあうのかも……。 「富士山じゃぁ」 これから執行する制裁の名前を、得意げに発表するジャカルタ。 (痛ててっ!) 両耳を掴まれて、俺の頭は真っ黒な拳で完全にロックされた。 そのままジワジワと持ち上げられていく。自分の体重がどんどん首に負荷をかけ、痛みが増していく。 耳がちぎれそうに痛い。たまらずジャカルタの上腕に手を掛け自重を逃がす。 「プッ」 勝ち誇ったように、ジャカルタが息をもらした。 とうとう天井近くにまで俺の頭が達した頃、ジャカルタは腕の動きを止めた。 富士山の本当に恐ろしい所は、物理的な痛みよりも、屈辱的なこの体制にあると俺は思っていた。クラス全員の視線が俺に突き刺さる。 ニヤニヤして見ている者、自分じゃなくてよかったと安堵の表情を浮かべている者。 早く授業を始めて欲しいと教科書と俺を交互にチラ見している者もいる。 窓際の席のツヨっさんは、怒りに満ちた表情で歯を食いしばっている。 そして……。 今にも本当の事を口から零しそうになっている 半泣きのカコと目があった。 (絶対言うな……、絶対に言うな……) 俺は視線に気持ちをのせて、小さく首を振りながら 強く強くカコを見た。 そして、自分に負けないように、こんなのへっちゃらだと伝わるように 最高のシマダイスマイルをつくってやった。 「何か今日の富士山長くねぇ?」  誰かの声が聞こえた、……その時だった。 〈ガッシャーン!!〉 沈黙を壊すようにガラスの割れる音が響いた。皆の注目が音のした方に走る。 「キャーー!!」 女子の悲鳴が響く。俺は目を疑った。ツヨっさんの腕が、廊下に通じる窓を突き破っていたのだ。 破片で傷ついた腕から流れる赤い血が、古い床板に落ちていく。 俺はジャカルタの手を振り払い、ツヨっさんに走り寄った。 「大丈夫か! 何でなん?」
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