19人が本棚に入れています
本棚に追加
でも夜中の間、ずっと流れ続けた涙は、何一つ洗い流してはくれなかった。
私は誠一が好きなままだった。
親友の真由美という恋人がいるのに、それでも誠一が好きだった。
だが、誠一が私を「見ていない」ことは知っている。
誠一は真由美しか見ていなかった。
その優しげな微笑みは、全て真由美に向けられたものなのだ。
誘惑したかった。
二人きりで海に来ているのに、死ぬほど好きなひとと、こんな場所で二人きりでいるのに…
これまで何度、仕事で二人きりだったのに何も出来なくて、後でどれほど狂おしいほどに後悔し続けたことか。
あんな思いをするくらいなら、今すぐ誠一の手を握りたい。
私のことなど全く見ていないひとに、こんなことを思い続けてるなんて、私は明らかにおかしい。
でもさっき自分が着ていたコートを、私の体にかけてくれて、誠一が微笑んだ時、そのまま手を握り、キスしたくてたまらなくなった自分が怖かった。
親友の、大好きな真由美の彼氏なのに。
誠一は真由美のことしか見ていないのに。
それを全て壊そうとしたら、壊れるのは、ただ私一人だけなのに…
目の前の波が、呼吸困難になりそうな私の緊縮した気持ちを少し和らげてくれる。
でも波のしぶきが、全て私の涙に見えた。
ひどく悲しかった。
目をつむって、波の音だけを聞いた。
最初のコメントを投稿しよう!