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そういうことってあると思う。
私も若い男女のお客さんを見て、あ、この2人は深い仲だなと感じることがある。
商品を覗き込んだ時に、身体が触れ合っていても気にしていない様子とか。
距離の近さや雰囲気で何となくわかるものだ。
今の綾子チーフはまさにそんな感じだった。
そして、そんな疑惑を肯定するかのように、朔夜が私を振り返った。
私に見られたらマズいから。後ろめたいから振り返った。
閉店時間になると、綾子チーフはもう1つのレジを打っていた高遠くんとラッピングの私に向かって笑顔を見せた。
「お疲れ様。もう上がっていいわよ。」
「これから撤収作業ですよね。俺、残っても大丈夫ですよ。」
被せ気味に言った高遠くんに少し違和感を感じた。
「あ、じゃあ、私も。」
朔夜を綾子チーフと2人きりにしたくなくて、私もすかさず声を上げた。
もしかしたら、高遠くんはそういう意図で言ってくれたのかなと思った。
意地悪な言い方をする時もあるけど、高遠くんの眼差しはいつも私を心配しているようだったから。
「木原くんと2人で平気よ。雪が酷くなる前にあなたたちは帰った方がいいわ。バスが止まっちゃったら大変でしょ?」
高遠くんと私はバス通勤で、綾子チーフと朔夜は車通勤。
私たちの帰路を心配しているような言葉だったけど、早く朔夜と2人きりになりたがっているように聞こえたのは、気のせいかな。
「バスも車も同じでしょ。4人でやった方が早く終わりますよ。」
どこか飄々としている高遠くんにしては珍しく、今日は食い下がってくれたのに、綾子チーフは一枚上手だった。
「この後、ちょっと木原くんと話したいことがあるから、あなたたちはもう帰って。」
そんな風にはっきり言われてしまっては残るわけにもいかず、高遠くんと私はお先に失礼しますと頭を下げてバックヤードに向かった。
「あれは意外だったな。」
従業員専用のエレベーターに乗ると、高遠くんが腕を組んで呟いた。
「何が?」
「綾子さんの方が積極的ってこと。若い男の馬力にハマったのかな。」
そんな下世話な言い方に耳を塞ぎたくなる。
「あんたもさ、早く目を覚ましなよ。他にいくらでもいい男はいるんだから。」
「例えば高遠くんとか?」
「それは身の程知らずってもんでしょ。」
「はは。確かに。」
こんな気分の時に、笑わせてくれた高遠くんに感謝だ。
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