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ピンクと茶色のハート型のポップがそこかしこで踊っている。
駅ビルに入っている『カーサ』という雑貨屋で働き始めて、もうすぐ3年。失敗ばかりだった私も、もうだいぶ慣れた。
雑貨屋の仕事は楽しい。
大好きな雑貨に囲まれて仕事が出来る上に、新商品が入るといち早く可愛い雑貨を手に取ることが出来る。
でも、こんな忙しい時期には楽しいなんて言っていられない。
バレンタインデーのせいだ。
手先の器用さだけが取り柄の私は、みんなよりもちょっとだけラッピングが得意で、ここ数日はずっとレジの後ろでラッピングをしていた。
もちろん私1人ではなく3人でやっているんだけど、やってもやっても終わらない。
ラッピング待ちの番号札を持ったお客さんたちが、レジの周りをウロウロしながら、ラッピングしている私たちをチラチラ見ている。それが結構プレッシャーだったりする。
「クリスマスの地獄が終わったと思ったら、バレンタインだもん。もう、他のお店に行ってくださいって言いたくなるぐらいだよ。」
ミックスサンドを野菜ジュースで流し込むように食べた美沙貴が、休憩室のイスの背にもたれて愚痴を零した。
「仕方ないよ。この辺でオシャレな雑貨を買おうと思ったら、『カーサ』しかないもん。この忙しさも今日までだから、あとひと踏ん張りだよ。頑張ろ!」
ガッツポーズを取って美沙貴と自分自身を奮い立たせたのに、そんな私を美沙貴はジトッと冷めた目で見返した。
「いいよね、環は。仕事終わったら、木原さんとバレンタインデートでしょ? 私なんてチョコあげる相手もいないのに。」
「あげればいいじゃない。高遠くんに。」
「えー?! 無理無理!」
バイトの高遠くんの名前を出すと、美沙貴は真っ赤になって手を横に振った。
高遠くんは超イケメンで、彼目当てに来る女性客もいるほどだ。でも、彼にはどこか近寄りがたい雰囲気があり、美沙貴は義理チョコすら渡せないでいた。
それに比べて、私の彼氏の木原 朔夜は親しみやすい笑顔のせいか、今日は何人かのバイトの女の子たちからチョコをもらっていた。
バイトの子たちも彼が私と付き合っていることは知っているから、みんな義理チョコのはずだけど、義理か本命か本当のところはわからない。
でも、今の私にとってそんなことは大した問題ではなかった。
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