雪の夜

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綾子を抱いていた頃から、彼女の気持ちには薄々気がついていた。 綾子が俺と浮気したのは、仕事優先の彼氏にもっと構ってもらいたかったからだ。男の影をちらつかせれば、結婚に踏み切ってくれるだろうと考えたのかもしれない。 その作戦が功を奏したのか、綾子はスピード結婚をしたわけだが、結婚後も同じ悩みを抱えていたらしい。 「一緒に行きたいって言えばいいじゃないですか。」 「言えないわよ。向こうは別居もやむを得ないって考えてるのに。」 「でも、子どもが欲しいから仕事を辞めてくれとは言われたんですよね? それって俺について来てくれって意味だったんじゃ」 「そうかな?」 俺の言葉に縋りつくように、綾子の手が俺の腕を掴んだ。 「ほら、もうこういうのは止めて下さい。セクハラで本部に訴えますよ? 旦那を愛してるんなら、ヤキモチ焼かせようなんて小細工は止めて、まっすぐ向き合わないと。」 自分の言葉がそのままブーメランのように返って来た。 俺だって自分を偽ったまま、環にプロポーズしようとしているじゃないか。 「表参道店に異動願い、出しちゃおうかな。」 泣き笑いのような顔をした綾子は、もう心を決めたみたいだ。 「あんな激戦区に飛び込んだら、妊娠なんて無理ですよ。もっと暇なところにして、産休と育休をしっかり取って。」 俺の忠告なんて無視して、さっさと荷物をまとめると綾子はバタンとロッカーを閉めた。 「今から旦那の出張先のホテルに突撃する。雪で電車が止まってないことを祈ってて。あ、私の代わりに笠井シティーホテルに泊まってもいいわよ?」 今にも駆け出して行きそうな綾子に苦笑いを返した。 「いえ、いいです。俺も今夜は環の家に突撃しますから。」 環に綾子とのことを洗いざらい話して、こんな俺だけど結婚してくれと懇願しよう。 どうやら綾子はすぐに東京に異動になるようだし。 綾子と別れると俺はすぐに環に電話したが、しつこくコールしても通じなかった。 駅ビルの中にいた時にはわからなかったが、駅前は大渋滞だ。 環はバスに乗れただろうか。まだいるんじゃないかと思いバス停まで行ってみたが、環の姿はなかった。 車を停めてある南口の駐車場に向かいながら、もう一度電話してみても、やっぱり環は出ない。 今、どこにいる? 言いようのない不安が、俺の心の中に広がっていった。
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