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ワイパーが忙しなく動いている。
ラジオからは雪による飛行機の欠航や、電車の運転見合わせのニュースがひっきりなしに流れてくる。
今のところ常磐線は動いているようだから、綾子は東京の旦那の元へ辿り着けるだろう。
駅の南口は北口ほど混雑していなかったので、駐車場からは割とすんなり出られたものの、大通りの手前で渋滞に嵌ってしまった。
ならばとスマホを取り出し環に掛けてみたが、コール音が空しく響くだけだ。
北口は全然流れていなかったから、環はまだバスの中なのだろう。席に座れたら睡魔が襲って来て、眠ってしまったのかもしれない。
バスの中ではスマホのサウンドはバイブにしているはずだから、眠っていたら気付かなくても不思議ではない。
そうであって欲しい。
バスに乗るのを諦めて、歩いて帰っている途中で事故に遭ったのでは? さっきから、そんな心配ばかりしている。
視界は悪いし、路面は滑りやすくなっている。スリップした車に跳ねられて、溶けかけの雪でぐちゃぐちゃの車道に横たわる環の姿が脳裏に浮かんだ。
環のアパートに着いたが、表の道からは2階の真ん中の環の部屋の窓は見えないので、灯りが点いているかはわからない。
車を停めて外に出ると、もう結構雪が積もっていて足首まで沈み込んだ。
そのまま、外階段を上ろうとしたら、靴底に付いていた雪のせいでツルッと滑る。
転ばないようにバランスを取ってから、雪を落とすように足踏みして、階段を駆け上った。
2階に上がり切ったところの蛍光灯が、ジジジと耳障りな音を立てながら点滅している。
廊下に雪が吹き込んでいて、手摺の上にはこんもりと積もっていた。
その時、初めて足跡がないことに気が付いた。
車を降りてから入り口までの間にも、外階段にも廊下にも足跡がついていなかった。
まだ帰っていないって、遅すぎないか?
胸騒ぎを感じながら合鍵を鍵穴に差し込んだ、その時。
何となく環の気配を感じて下を見ると、俺の車のそばに立ってこっちを見上げている環が目に入った。
「環!!」
慌てて外階段を駆け下りて、環を抱きしめる。オレンジ色の傘が環の手から落ちて足元に転がった。
「良かった! 無事で。電話しても出ないから、何かあったんじゃないかと心配でおかしくなりそうだった。」
「さく……や……」
俺の名を呼ぶ声はか細くて、微かに震えていた。
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